午前0時の恋人契約
「でもあれだけのいい男だし、女が放っておかないですよねぇ。ていうか、彼女3人くらいいそう」
それは津賀くんなりの冗談なのだろう。けれど、その一言は小さく胸を刺す。
女性が、放っておかない。
そう、だよね。あれだけの素敵な人だもん、相手は私だけじゃない。
そんな些細な言葉を、また気にしてしまう。
「ん?市原さんどうかしまし……うわぁ!」
その時、突然私と津賀くんの顔を誰かの手が思い切り引き離す。
「誰の彼女が3人だって?」
耳元で聞こえたはっきりとした低い声に津賀くんと一緒に振り向けば、そこにいたのは噂をすれば……貴人さん。
津賀くんの話を聞いていたのだろう、その眉間にはシワが寄り、少し不機嫌そうだ。
「げ!岬課長……」
まずい、聞かれていた。そんな気持ちから先ほどまで緩みっぱなしだった顔をひきつらせ笑う津賀くんに、貴人さんはジロリと睨む。
「津賀、お前そういえば土曜に出して帰れって言った報告書、忘れたらしいなぁ?おかげで俺の仕事が進まなくて困ってるんだが?」
「す、すみませーん……今取ってきます!!」
その目の鋭さに津賀くんは逃げるようにフロアを飛び出して行った。
津賀くん、元気だなぁ……。
「あと市原、話がある。ちょっと」
「え?あ、はい……」
話?
なんだろう、と疑問に思いながら、私は呼ばれるがまま席を立ちフロアを出た。