午前0時の恋人契約
そして貴人さんとふたりやってきたのは、先日もふたりで作業をしたばかりの小さな会議室。
今日も使われている様子のないその部屋は、がらんと静けさだけが漂う。
「あの、話って……?」
「悪いが今夜急な接待が入ってな。夜に時間がとれなくなった」
それは、今夜のデートの中止の知らせ。そっか、と残念な気持ちにもなるものの、仕事なら仕方がないと諦めもつく。
「わかりました、じゃあ今夜は……」
「だから、お前も一緒に来い」
「へ?」
ところが、目の前の貴人さんが真面目な顔で言った一言に、意味がわからずきょとんとしてしまう。
「私も、ですか?」
「あぁ。ふたりきりは無理でもせめて一緒に過ごす時間くらいはとっておきたいからな。それに接待に同席させるなら女のほうがやりやすい」
ようするに、一緒にいられて仕事もやりやすい、一石二鳥ということだろう。
「けど私、接待なんてしたことないですけど……」
「とりあえず笑って飯食っておけばいい。話は全部俺がする」
「……そ、それなら。わかりました」
上手く出来るかはわからないけれど、小さく頷く私に、貴人さんは「よし」と納得して会議室を後にする。
接待って……大丈夫なのかな。私みたいなただの事務員には縁のなかったことだから、ちょっと不安。
だけど彼が『せめて一緒に過ごす時間くらいは』って、言ってくれたことが嬉しい。
だから、その気持ちに応えるように頑張ってみよう。