午前0時の恋人契約
「いやぁ、どうも岬くん!急に誘ってすみません!」
その夜、貴人さんとふたりでやってきた先のお店では、「あっはっは!」と男性の明るい声が響き渡る。
会社から少し来た先、恵比寿にある居酒屋。
海鮮料理が売りのそのお店の少し広めの個室で、隣同士に座る私たちの向かいには、白髪交じりのおじさんと、メガネをかけた痩せ型のおじさんがいい笑顔で座っている。
聞けばこのふたりは今日の接待の相手、取引先である大手製薬会社の営業部長と副部長だそう。
「いえ、おふたりとの食事会は楽しいですから。お誘いいただけて嬉しいです」
「そうかい?さすが岬くん、相変わらず嬉しいこと言ってくれるなぁ!」
にこ、と営業スマイルを見せる貴人さんに、白髪交じりのおじさん……部長さんは嬉しそうに大きな声で笑った。
ふたりは元々貴人さんを気に入っていて、取引条件などを大分良くしてくれていることもあり、食事に誘われると貴人さんも断るわけにはいかないのだそう。
貴人さんは“接待”という言い方をしていたけれどあくまで“仕事の一環”という意味なだけで、雰囲気としては食事会に近い。
これなら私も大丈夫そうかも……。
その場の雰囲気ににこ、と笑っていると、向かい合うふたりの視線はこちらへ向いた。