午前0時の恋人契約



「それにしても岬くんが女性連れとは珍しい!いつもはいくら頼んでも男ばかり連れて来ていたのになぁ」

「男同士のほうがあれこれ話が弾むかと思いまして。でもたまには華があったほうがいいですもんね」



『こんなしなびた華でも』、と意地悪に付け足されそうな一言を想像しながら、慌てて頭を下げる。



「は、初めまして、広報企画部の市原と申します」

「市原さん、か!美人だし控えめだしいいねぇ、コレはいるのかい?」



コレ、と言いながら親指を立てる部長さんに、一瞬意味を考えてからそれが『彼氏』の存在を指していることに気付く。



「あ、えと……」



こういう場合はなんて答えたらいいんだろう。素直に言うべき?それとも見栄を張っておくべき?



「お待たせいたしました、お先にお飲み物になります」



答えに戸惑っていると、ちょうどいいタイミングでビールジョッキが4つ運ばれてきた。

よかった、うまく話を流してしまおう。



「お、きたきた。じゃあカンパイ!」

「乾杯、いただきます」

「い、いただきます……」



ビールは得意ではないけれど、ここで断るわけにもいかないし……。

ぐい、とひと口飲むと感じる苦味に、それが顔に出てしまわぬように笑顔をつくる。



「お、市原さん、大人しそうな顔していけるねぇ!さ、飲んで飲んで」

「は、はい……あはは」



よかった、顔には出てないみたい。私がお酒に付き合うことで、一層上機嫌になる部長さんに安心しながらもうひと口ビールを飲んだ。



う……でもやっぱり、苦い。



水にしようかな、けどお酒のみでいったほうがいいかな、どうしよう。

いつも以上に相手の反応を気にしてしまい、飲み物ひとつにも戸惑ってしまう。



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