午前0時の恋人契約
その時、ふと足元になにかが触れる感触。
なんだろう、と目線をさりげなく足元へ向ければ、そこには紺色のスカートの上から私の太ももにそっと乗せられる貴人さんの手があった。
た、貴人さん!?
いきなり太ももに触れるなんて……ふたりから見えないからって、テーブルの下で一体なにをするつもり!?
驚きその顔を見るものの、貴人さんは楽しげにふたりと話しながらビールを飲んでいる。
その顔に私も慌てて笑顔をつくり直すけれど、突然のことに心臓をバクバクとさせ、固まることしかできない。
すると続いて、その指先はトントンと私の太ももをつつく。
ん……?なに?
思っていたのと違うその行動に心を落ち着けると、貴人さんは指を動かし太ももになにかを書く。
文字……?
その指先に意識を集中させると、太ももに書かれるのは『む』の文字。そしてそれに続いて『り』、『す』……と書かれていく。
『む り す る な』
それは、無理をして飲まなくていい、という彼なりの気遣いだろう。
……気にしてくれているんだ、優しい。
その気持ちに甘えるように、さりげなく水を飲むと、部長さんたちは貴人さんとの会話に夢中で、 私の飲み物など全く気にしていない様子だ。
よかった、大丈夫っぽい。
太ももに乗せられる手にそっと触れ、私も彼の手の甲に指先で文字を書く。
『あ り が と う』
テーブルの下の密かなやりとりが、愛しくて、嬉しい。