午前0時の恋人契約




そしてそれから数時間後、心ゆくまで飲み食いをし話をし……部長さんは満足をしたらしく、ようやくお店を出た。



「岬くん、じゃあまた!市原さんもお疲れ!」

「お疲れ様でした、おやすみなさい」



真っ赤な顔でふらふらとタクシーに乗り、去っていくふたりに、残された貴人さんと私からこぼれるのは「ふぅ……」と深いため息。



「ようやく行った……あー、長かった」

「そう、ですね……」



左手の腕時計を見れば、時刻はもう23時半を過ぎている。

この時間まで、ひたすら笑顔で話を聞き、相手を引き立てるように会話をし……両頬の筋肉は、もう限界だ。



貴人さんに至ってはそれに加え、部長さんに付き合うように何杯もビールを飲んでいるものだから、余計つらいだろう。

脱力したように首元のネクタイを緩める貴人さんは、顔はいつも通りなものの足元が少し不安定だ。



「でも貴人さん、お酒強いんですね。見た目全然いつも通りです」

「そうだな、それなりに」



すると、頬にぽつ、と雫が触れる。



水……?

不思議に思い空を見上げれば、パラパラと降り出した雨は瞬く間に勢いを増し、ザアアァ……と大雨へと変わった。



「わっ、雨……!?」

「いきなりすごいな……屋根のあるところ行くぞ」



一瞬にして全身を濡らしていく雨に、私と貴人さんは慌てて近くの閉店後のショップの屋根の下へと入り込んだ。



手前の繁華街や先の駅前はまだキラキラと眩しく光っているものの、ちょうど中間のこの通りは閉店後のお店が多く、どこかひっそりとしている。

その中をザアザアと降る雨を見上げ、濡れた髪を耳にかけた。


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