午前0時の恋人契約
「貴人さんは、いつも優しいですね」
「そうでもないだろ。俺より優しい男なんてそこら中にいる」
自覚がないのだろうか。自分のことを冷めた目で見ているように、否定をする。
そこら中に、いるのかもしれない。だけど、私にとっては、貴人さんが一番優しいと思う。
あなただから心は揺れて、変わっていくのだと思う。
「会社で課長として見る貴人さんは、ちょっと怖くて、人にも自分にも厳しくて……でも皆に信頼されて、自分には別世界の人だと思ってたから」
その想いを、ひとつひとつ伝えるように。
「けど本当はこんなに優しくて……貴人さんのそういう面を知れた。仮でも、彼女になれてよかったです」
あなたの、“彼女”でよかった。あなたが、“彼氏”でよかった。
例え、限られた時間だけでも。レンタル彼氏として現れてくれたのが、貴人さんでよかった。
そう、心から想える。
その気持ちを伝える私に、貴人さんは照れ臭そうに髪をかく。
「お前……よくもまぁそんな気恥ずかしいことを堂々と言えるな」
「だって本当ですもん。あれ……もしかして、照れてます?」
「うるさい、黙れ」
顔を背けながらほんの少し赤くなる頬に、彼もこんな風に照れたりするんだとまたひとつ新しい顔を知る。
いつもの仕返し、と言わんばかりにからかうようにその顔を覗き込むと、互いの目と目がしっかりと合った。
ばち、と合った目に、それまで普通に話せていたのに途端に恥ずかしくなってしまう。