午前0時の恋人契約
10.フタリ ノ タチバ
重なった唇は、薄く熱く、少し苦い味がした。
だけど、その苦さすら愛おしい。
ずっと、ずっと、そのままでいたいと願ってやまないほど。
昨夜の雨から一転して、カラッと晴れた青空が頭上に広がる。
眩しい日差しに時折吹く風が心地よい。そんな絶好の天気の中、私はひとり神妙な面持ちで、トートバッグを両手で握り会社のあるビルの前に立っていた。
い、いつもより早く来てしまった……。というか、昨夜は眠れなかった。
だって、だってだってだって、まさか貴人さんとキスしてしまう、なんて……!!
目を閉じるだけで思い出してしまう、昨夜の出来事にまた心臓はバクバクと音を立て、足は会社に入ろうとしてためらい、入ろうとしてためらいを繰り返す。
昨夜、あの後雨はすぐあがって、貴人さんは至って普通に家まで送ってくれた。
特別な会話も言葉もなかったし、恥ずかしくてまともに顔を見ることも出来なかったから、その気持ちを知ることは出来なかったけれど……。
だからこそ、どんな顔をしていいのかがわからない。
あぁ、もう、どうしよう。
困惑する心に、ここまで来てなんだけれど今日は会社を休んでしまおうかとさえ思う。けど、変に休むと余計微妙な空気になってしまいそうだし……!
どうしよう、と迷いながら、一度体をUターンさせ駅の方へ向けて、でもまた会社のほうを向いて、と今度はその場でくるくると回ってしまう。