午前0時の恋人契約
でも、どうしてキスなんて……?
あれも、レンタル彼氏としての仕事なのかな?
でもハグ以上はルール違反って言っていたし……まさか、オプション?キスしたことで料金上乗せとか?
いや、それよりも問題はまず今日をどう乗り切るかだ。普通にしないと、普通、普通に……。
そう心に言い聞かせるものの、またふっと思い出す貴人さんとのキスに、顔はボッと熱くなる。
ダメだ、普通になんて出来ない!
「おい不審者」
「はっはいい!」
突然背後からかけられた声に、つい『はい』と返事をして振り向く。
するとそれは貴人さんで、いつも通り黒いスーツ姿の背の高い彼は、呆れた顔をして私の後ろに立っていた。
「不審者と呼ばれて返事をするやつがいるか。入り口でウロウロしてないでさっさと中入れ」
「あっ、は、はい……すみません」
み、見られていた……。
ひとり、行こうとしたり帰ろうとしたりしていた姿を見ていたのだろう。私を追い越し颯爽と中へ入って行く彼に、後を追うように一緒に会社へ入っていく。
ま、まさか入り口で行きあってしまうなんて……まだ心の準備ができていないのに!
どうしよう、どんな顔をしてどんな態度をすればいいのだろう。あぁ、こんな時に自分の恋愛経験値の低さが憎い……!