午前0時の恋人契約



普通の顔でエレベーターに乗り込む貴人さんに続いてエレベーターに乗る。

けれど、彼はどう見ても至って普通の態度。向けられたままの背中がむしろそっけない気もする。



会話ひとつもなくポン、とフロアについたエレベーターに、貴人さんはスタスタと歩いて去って行ってしまった。

そんな遠くなる背中を、エレベーターの中から見つめることしかできない。



な、なんであんな態度……?

もしかして、昨夜のことは夢!?いや、そんなわけないか。ちゃんと現実だし……感触だって、ちゃんと覚えている。

って思い出すとまた恥ずかしくなってきた!



……もしかして、貴人さんにとっては大したことじゃないとか?

レンタル彼氏としてのサービス?よくあること?



……認めたくはない、けどそのほうがあり得るかもしれない。



「……サービス、かぁ」



ひとりエレベーターの中でぼそ、と呟き唇に触れると、思い浮かぶのはまた、昨夜の景色ばかり。

熱い肌と、強く抱きしめた腕、求める唇。

なによりも永く続いてほしいと願ったあのキスを、仕事だなんて、思いたくないよ。



「あれ、市原さん?なにしてるんです?」

「へ?あれ!?」



すると突然目の前に現れた津賀くんに、ハッと思い出しこのフロアが何階なのかを確認すると、エレベーターは6階、最上階まできていた。



「珍しいですねー、市原さんがこのフロアくるなんて。何か用ですか?」

「え!?あ、うん、えと……あはは!」



まさか貴人さんとのことを考えて上まで来てしまったとは言えず、私は笑ってごまかすととりあえずエレベーターを降りた。

津賀くんは不思議そうな顔で、それと入れ替わるようにエレベーターにのると下へとおりていった。



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