午前0時の恋人契約



はぁ……変なことばかり考えていないで、しっかりしないと。

せめて会社では、そう。恋人ではないんだから、ちゃんとしなきゃ。



まずは自分を落ち着かせるべく、私は廊下の一番端にある階段で下へとくだっていくことにした。



深呼吸をして、冷静に……。

普段あまり使われることのない、ひと気のない階段には、「ふー……」と吐き出す自分の深い呼吸と、階段をおりるコツ、コツという音だけが響く。



「だから、それだけだって言ってるだろうが!」

「わ!」



するとその時、下の階段から聞こえてきたのは、はっきりと響く低い声。



な、なに?

つい声を出してしまったものの、口元を押さえ恐る恐る下の階段を覗き込むと、そこには携帯片手に誰かと電話をしている貴人さんの姿がある。



貴人さん……?こんなところで誰と電話しているんだろう?

気になるけど、そこまでは踏み込んじゃダメだよね。



電話で話しているところにズカズカと降りていくのも、と足を止め、上のフロアに戻ろうとした。



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