午前0時の恋人契約
「はい、どうぞ」
白い革張りのソファーに座り目の前に置かれたカップをそっと手に取ると、温かさがじんわりと伝う。
金色の縁の高級そうなカップの中に揺れるホットミルクティーに、小さく口をつければ甘さが広がった。
「あったかい……」
安心するその味に小さく呟くと、目の前に座る桐子さんはふふと笑う。
いきなり泣き出した私に、桐子さんはすぐタクシーを捕まえお店まで連れてきてくれた。
先日通された応接室に通して、さらにはこうして飲み物まで用意してくれて……なにからなにまで甘えっぱなしだ。
「落ち着いた?」
「はい……すみません、いきなり大泣きしたりして」
冷静になると、いきなり泣き出し迷惑をかけた自分が恥ずかしくなってしまう。
けれど、そんな私にも桐子さんは嫌な顔ひとつ見せず、紫色の派手なアイシャドーと真っ黒なアイラインに囲われた目元を細めた。
「それで、どうしたの?今日貴人が一緒にいないことと関係ある?」
「……あ……」
今日貴人さんといない理由。自分の抱く気持ちと、彼の言葉。
社長である桐子さんに気持ちを話したら、怒られてしまうかもしれない。最悪、今すぐ契約が終わってしまうかもしれない。
そう予想出来る今、話すべきではないことなのだろう。けれど。