午前0時の恋人契約
当たり前、分かっていた。
いくらそう自分を納得させようと思っても納得なんて、出来ない。
例え彼にとって仕事だとしても、嬉しかったの。
与えてくれた言葉も、叩いてくれた背中も、昨日のキスも。嬉しくて、愛しくて、どうしようもなくて。
その気持ちを、『ただの仕事』で片付けられない。悲しいよ、苦しいよ。
今更遅いって分かってる。けど、彼にとって客じゃなくてひとりの女性になりたい。
『レンタル彼氏』、以上の存在を求めてる。
「そうだったの……なら、仕方ないわよねぇ」
桐子さんはぼそ、と呟くと、手元のカップのミルクティーをひと口飲み、笑顔とともに納得するように頷いた。
それは、怒られるかも、契約を切られるかも、と不安に思っていた私の心とは真逆の反応。
え?仕方、ない?
こらえてはいるものの、半泣きの顔で見れば、桐子さんは手元の指輪についた大きな宝石をキラリと輝かせ、カールさせた長い髪を耳にかけた。
形の綺麗なその耳にもまた、大きなダイヤのピアスが輝く。
「怒ら……ないんですか?」
「え?どうして怒るの?」
どうしてって……逆に聞かれてしまった。
だって、その、と言葉を選ぶ私に、その手はカップをそっとテーブルの上のソーサーに戻した。