午前0時の恋人契約
「……貴人さん」
「ん?なんだ」
「今日まで、本当にありがとうございました」
ありがとう。あなたのおかげで、私は変われたから。
「この10日間で私が変われたこと、証明してみせますから。ちゃんと見ていてくださいね」
「すみれ……?」
その言葉の意味を問いかけようとした貴人さんの声を遮るように、エレベーターはポン、と音を立てて止まる。
そして降りた先には、黒い壁の高級和食料理店があった。
「いらっしゃいませ」
「すみません、予約した園崎と申しますが……」
「すみれ!」
出迎えた店員さんに声をかけると同時に、呼ばれた名前にお店の奥を見ると、先に来ていたらしい父が笑顔で手を振っている。
その姿を見つけた途端、隣に立つ彼の背筋がよりピンと伸びるのが横目に見えた。
「お父さん。来てたんだ、早いね」
「まぁな。さ、まずは座れ」
彼氏を父に紹介することなど当然初めて。そのせいか、どこかそわそわとした様子の父は、近付いた私たちを座敷へとあがらせ座らせた。
畳と黒いテーブルという、和風とシック、そして高級感を兼ね備えた店内にはあまり人はおらず、BGMが程よく静けさを消していく。