午前0時の恋人契約
「いらっしゃいませ、失礼致します」
やって来たウェイターは、礼をひとつすると私たちの前へ水とおしぼりをテーブルへと置いた。
「お食事はご予約のおすすめコースでよろしかったでしょうか」
「あぁ。飲み物は……ふたりとも、なににする?」
「私はウーロン茶で、貴人さんはどうしますか?」
「自分もウーロン茶で」
聞こえてくる声は、いつもと同じ落ち着いた低い声。けれど、どこか微かに緊張しているのが感じられる。
去って行くウェイターにその場には3人だけが残され、話を振りたいけれど少し戸惑う、よそよそ父がちょっとおかしい。
けれど心を決めたのか、父はゴホン、と咳払いをひとつすると私と貴人さんを見た。
「さて……じゃあ改めて、紹介してくれるな?」
「初めまして、岬貴人と申します。すみれさんと同じ会社に勤務しております」
深くお辞儀をする貴人さんの真面目な態度に安心したのだろう。その顔はぱぁっと明るくなる。
「おぉ、真面目そうないい男じゃないか!こんなにいい彼氏が居たとはなぁ」
きっとこのまま、「そうなの」と頷けば予定通りに事は進む。
貴人さんはレンタル彼氏としての仕事をこなせて、お父さんは安心する、私もお見合いをしなくて済む。
皆が幸せに、話が終わる。
だけど、それでいいの?
終わってしまっていいの?
これまでの日々を、終わらせたくない。明日へもつなげていくために、
『何事にも挑んでみるのも、また人生』
だから、自ら動くよ。