午前0時の恋人契約
2.フアン ナ ハジマリ
人をお金で借りるという行為に感じる、後ろめたい気持ち。
こんなこと、自分には絶対縁のないことだと思ってた。
だけど、人生がかかっているんです。
私には私の、生きる道があるんです。
例えそれがひとりきりの道で、『なんて寂しい道だ』と、誰かに笑われたとしても。
桐子さんの元を訪れ、契約を交わした日の翌日……月曜日。
休み明けの憂鬱さを払うようにせかせかと動く皆の中、私は今日もひとりパソコンに向かい合い、カタカタと入力作業をし続けている。
今日も外はいい天気だなぁ……。
窓の外の青空に視線を向け、ずっと画面を見続けて疲れた目を少し休ませつつ、また目をパソコンへ向けた。
「市原さーん、さっき店舗からのメール転送したんだけど読んだ?」
「あっ、はい、でもまだほかの仕事が忙しくて手をつけられていなくて……」
そう声をかけてきたのは、営業部の先輩である男性社員。
彼が指すメールとは、先ほど受け取った店舗のセール依頼のメールだけれど……急ぎとも書いていなかったし、私は私の仕事が多く、まだそのままだ。
それを正直に答えた私に、彼は少し怪訝そうな顔をしてみせる。
「えー?困るよ、急いでるのにさぁ。市原さんが無理なら今から他の人に頼まなきゃいけなくなるじゃん」
あ、まずい。機嫌が悪くなりそう。
眉間に寄りかけたシワに過剰なくらいに反応し、慌てて笑顔を繕った。