午前0時の恋人契約
「え?キスは仕事だったんじゃ……?」
「アホか。金積まれてもキスなんて安売りしねーよ。そもそも、金のために彼氏なんてやらない」
お金の、ためじゃない?
「……全部、フリだったんだよ」
「へ?」
フ、リ?
彼氏の、フリ、って?どういうこと?
全く意味が分からず、目を丸くして顔を上げると、頭上にある顔は少し照れくさそうな顔をしてみせる。
「親なんだよ。あいつ……桐子が」
「お、や……こ?」
桐子さんが、貴人さんの、親……
つまり、お母さん……お母さん!?
目の前の貴人さんの顔を見ながら、化粧の濃い桐子さんの顔を思い浮かべる。
けれどふたりは全く似ていなくて、寧ろ真逆の人間に感じていただけに驚きは大きい。
そういえば一番最初に、桐子さん息子がいるって言っていた。けどそれが貴人さんだなんて予想するわけがなくて、そんな、まさか、そんな……!
「し、信じられません……!」
「俺も親があんな会社やってるなんて信じられないけどな……」
驚き悲鳴のような声を出す私に、息子としては多少気まずいところがあるのだろう。貴人さんは抱きしめたまま、はは、と苦い笑いをこぼす。