午前0時の恋人契約
「用があって店に行ったら、偶然お前が店から出て行くのを見かけてな。聞けば客だっていうから、よその男に適当に彼氏役なんてやらせるくらいなら俺がやるって、桐子に無理言ってならせて貰ったんだよ」
「でも、遊園地で行きあったあの女性は……」
「え?あぁ、あの人はうちの店自体の常連。俺も何回か行きあってて、俺のこと息子だって知っててな」
そういえば、『お店の客』とは言っても『彼自身の客』とは言っていなかった。
ということは、貴人さんは他の女性の彼氏役なんてしたことなくて、というかそもそもレンタル彼氏ではなくて……。
本当に、全部フリだったんだ……!!
頭の中で合致する事実に、ひとり踊らされていたことに気付いて恥ずかしくなってしまう。
「じゃ、じゃあ昨日の電話は……」
「あの電話は、母親があれこれ探りたがるから、照れ隠しというか、なんというか」
「言ったらまたうるさいだろうしな」と照れながら付け足す貴人さんに、確かに『キスをした』とでも言おうものなら、満面の笑みでからかう桐子さんの顔が簡単に想像ついた。
それを阻止するべく、貴人さんはあれだけ必死に否定していたのだろう。
「あれ?でもそもそも、どうして私の彼氏役なんて……?」
「どうしてって……分かるだろ!つーか、分かれよ!」
「えっ?えーと、えーと……」
分かれ、と言われても……!
もしかして、と微かな可能性を頭に思い浮かべるものの、自惚れすぎる気がして、言葉にするのは躊躇われる。
そんな私に、貴人さんは一層恥ずかしそうに頬を赤くした。