午前0時の恋人契約
そんなある時、学生時代の後輩に『レンタル彼氏を利用したい』と頼まれ、渋々母親のやっている会社へと行くことにした。
身内が、まさかレンタル彼氏という店を経営しているなんて……。
仲の良い間柄の人間には自然と噂で回ってしまうから仕方ないものの、会社の人間には絶対知られたくない。
ちなみに母親は浅田と名乗っているけれど、別に離婚したとかそういうわけではなく、本名はれっきとした岬だ。
だが『なんか響きが嫌』との理由で旧姓の浅田を名乗っている。
そういうどうでもいいところにこだわるところも、自分の母親ながらも苦手だ。
出来れば店に行くことなく済ませたかったけれど、『自分で取りにこい』と叱られたものだから、仕方なくすぐ店へと向かった。
ところが、いつものように来たビルから出てきたのは、見慣れた横顔。
緊張感から解放されたようにぐったりとうな垂れたその姿は、なんとすみれだった。
なんで市原がここに……?
このでかいビルは、ほとんどがオフィス。店は数える程度しか入っていないし、ましてや若い女がひとりでくるような場所なんて……。
そこまで考えて、ふと思った。
もしかして……レンタル、しに来た?
いや、そんなまさか。あの真面目な市原が、そんなわけない。
恋人がいる噂は聞いたことはないが、どう見ても人見知りだろうあいつが彼氏をレンタルしようと思うとは思えない。
……けど、一応。そんな思いで、母親に問いかけた。