午前0時の恋人契約
「す、すみません、今すぐやっちゃいますね」
「え?できんの?忙しいみたいだけど」
「これくらいパパーッとできちゃいますから。その間にお昼ごはん食べてきちゃってください」
丁度あと5分で12時になろうとしている壁の掛け時計を指差す私に、彼は『それもそうだな』とたちまちいい笑顔になる。
「んじゃ、行ってこようかなー。市原さん、お願いなー」
「はい、任せてください」
そして機嫌よく去って行く背中に、その姿が完全に見えなくなったことを確認して「はぁ、」とため息をひとつついた。
……はぁ。あの先輩、少し思った通りに仕事が進まないだけですぐ不機嫌になるから大変なんだよね。
指示する際の言葉は足りないのに、怒らせるとまた大変だし……結局いつも、こうして愛想笑いで必死に乗り切っている。
……目立たないように、機嫌を損ねないように。私はへらへらと、笑うだけ。
それが一番無難だし、安全。
「市原さーん、これおねがーい」
ひと息つく間もなく呼ばれた名前と、バサっとデスクに置かれた書類に、顔を上げるとそこには越谷さんが大きなピアスを揺らして笑っている。
今日も、きた。しかもこの忙しい時に。
また嫌な顔になりそうな顔を必死にこらえた。
「越谷さん……あの、今日は私も仕事が、あったりとか、して」
「私もいーっぱい仕事があって大変なんだよねぇ。だから、これだけは市原さんに頼んでもいいよね?」
精一杯の勇気で一度は断ろうとするものの、彼女はデスクに書類を置いたまま。