午前0時の恋人契約
「で、でも……」
「え?人がこれだけ頼んでるのにやってくれないとかありえなくない?」
途端に見せた不機嫌になりそうなその顔に、また過剰に反応してしまう自分は『出来ません』の言葉を飲み込んだ。
「わ……わかり、ました」
「ありがとー。じゃ、ヨロシク〜」
先ほどの先輩と同様に、私が頷いた途端表情をコロッと笑顔に変え、越谷さんは去っていく。
あぁ、私のバカ……!
結局あれもこれも断ることが出来ず、全部自分でやるはめになってしまう。
いつものことだし、断れない故の自業自得だけど……この仕事量を見てため息が出た。
今日は残業出来ないのに……。
そう、今日はレンタル彼氏の彼氏役の人と会う初日。19時に駅、ってことはそれまでに仕事を終わらせなければならないから、当然残業なんてしている暇はない。
お昼ごはん、食べてる暇ないや。
気付けば12時を過ぎていた時計に、フロア内の人は続々と休憩に行くべく席を立つ。
「越谷ー、お昼行こー」
「行く行く〜、なに食べるー?」
当然先ほどの彼女、越谷さんも、こちらを気にすることなく、昼食を食べにフロアを後にして行った。
……まぁ、いっか。
私ひとりが我慢すれば、それでいい。相手の機嫌も損ねないし、平和に話は進むこと。
苛つかれたり、怒られたり、嫌われたりして人間関係がこじれるくらいなら、笑って頷いていよう。
そんな半ば諦めに近い気持ちで、カタカタとキーボードを打ち仕事を再開させる。
そのうちにフロア内は全員いなくなり、そこには私ひとりだけが残された。
もうちょっときりのいいところまでやったら、せめてコーヒーくらい買いに行こう。飲まず食わずではさすがに、夜まで持ちそうにない。
そう考えながらエンターキーを押した、次の瞬間、突然背後からなにか柔らかいもので頭をパコンッと叩かれた。