午前0時の恋人契約
「わっ!!?」
な、なにごと!?
驚き、手を止めて振り向けば、そこには不機嫌そうな黒髪の男性……そう、岬課長が立っていた。
その手には丸めた資料を持っており、おそらくそれで私の頭を叩いたのだろう。
「み、岬課長……なんですか?いきなり」
「なに昼飯も食わずに仕事ばっかりしてるんだよ。昼休憩くらいきちんと取れ」
にこりともせず、ジロ、とこちらを見る黒い瞳は厳しい。けど気遣ってくれているのであろうその言葉は、優しい気がする。
「すみません、これ終わらせちゃいたくて」
「これ?なんだ、他の誰かに任せても大丈夫な内容だろ。忙しいなら誰かに頼めよ」
「い、いえ……頼まれたのは、自分なので。人に任せるわけにはいかないと、いいますか」
おどおどと言いながらつい下を向いてしまう私に、岬課長は画面に表示された内容を見ながら「ふーん」と呆れたように頷く。
「任せられると押し付けられるは別物だ。それであれもこれもひとりでやって、手一杯になってたら意味ないぞ」
「は……はい、すみません。残業にならないように、やります」
「あぁ、頼む。そもそもお前は前から『残業が多すぎる』と管理部からクレームが来てるからな」
うっ……。
自分の仕事以外もやっているからそうなるんだ、と釘を刺されるような一言に、それ以上はなにも返せず私はまたパソコンへと向き直る。
あぁ、呆れられてる……!
気まずい、情けない。そんな気持ちに、その場を歩き出す岬課長に、一層顔は下を向く。
押し付けられた仕事も断れず、バカな奴だと思われているんだろう。
これはますます、この仕事を手早く片付けて通常業務に戻らなければ……。