午前0時の恋人契約



「市原」

「は、はい!」



次はなに!?

さらに注意をされるのだろうか、と心臓をドキリとさせ返事をすると、部屋を出ようとしていた彼からなにかがヒュッと投げられる。



「えっ!?あっ、わぁっ!!」



慌てながらも咄嗟にそれをキャッチすると、それは個装されたお菓子のようなもの。

英語で書かれた袋の文字を見て、それがチョコレートだと気付く。



「これ、は……?」

「それでも食っとけ。無いよりマシだろ」



そっけなく言うと、岬課長はフロアを後にした。



チョコレート、貰っちゃった……。



甘い物のイメージのない彼がチョコレートを持ち歩いているとは思えないから、恐らく誰かから貰ったものなのだろう。

自分は食べないからとくれただけかもしれない。それでも、呆れられているとばかり思っていただけに、驚きは大きい。



言い方は厳しい人だけど、優しいなぁ。

ついその後ろ姿を追うようにドアから廊下を覗き込めば、廊下をスタスタと歩いていく彼の後ろ姿がある。



他の社員に声をかけられ話をする後ろ姿は、締まった背中とすらりとした長い脚に紺色のスーツがよく似合っていて、かっこいい。

仕事は出来るし、優しい一面もある。こういうところがまた、人望のある理由のひとつなのだろう。



「岬課長ー、システム課でトラブルでデータやり直しだそうでーす」

「あぁ!?ふざけるな!責任者連れてこい!!」



……お、怒るとやっぱり、怖いけど……。



こちらへ飛び火しないようにと、こそこそと自分の席に戻る。そして貰ったチョコレートの包みを開け、もぐ、と口に含んだ。

甘いチョコレートと小さなナッツの味が、空腹の体にじんわりとにじむ。



「……おいしい、」



俯きがちな顔が、つい小さくほころんだ。





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