午前0時の恋人契約
それから数時間が経ち、お昼抜きで頑張った甲斐もありなんとか仕事を終わらせることが出来た。
定時の18時少しすぎに会社を出た私は、待ち合わせ場所である新宿駅の前でひとりそわそわとその相手を待っていた。
つ、ついにこの時間が来てしまった……!
どんな人だろう、どんな人でも構わないと言ったは言ったけれど、いかついお兄さんとかいかにも怪しいおじさんとかだったらどうしよう……。
向こうが私の顔を見て帰っちゃったりしない?大丈夫?
あれ、っていうか相手の連絡先も名前も聞いてないけど大丈夫なのかな。
向こうも私の顔も知らないだろうし……まず待ち合わせが出来るのか、それすらも不安になってきた。
考えれば考えるほどまたもやもやと込み上げる不安に、また背中に嫌な汗をかく。
へ、変なことを考えるのはやめよう!それより身なりを確認しておこう!
目の前のショーウィンドウを見れば、そこにに映るのはベージュ色のジャケットを着た自分。
髪の毛はいつも通り、真ん中で分けて毛先を少し巻いただけ。化粧も薄めで地味めなもの。
もうちょっとおしゃれしてくればよかったかな。でも露骨にデートって格好をするのも……どうなんだろう。
うーん、と悩みながら、少し乱れていた髪を整える。
「なに自分の顔まじまじ見てるんだよ」
「わっ!?」
すると、突然の一言とともにガラスに映りこむのは、紺色のスーツを着て茶色い鞄を持った、私より頭ひとつ近く高い背をした男性……誰かと思えば、岬課長だ。
「みっ岬課長!?」
「おう、お疲れ。本当に残業なしで帰れたんだな」
岬課長は、そう感心するように言いながら、ガラス越しに私を見た。
み、見られた……!恥ずかしい!
自分の姿をショーウィンドウで確認している姿なんて、知っている人には見られたくないにもほどがある。
恥ずかしさにかああと赤くなる顔を押さえながら、ふと気付いた。