午前0時の恋人契約
「これ、は……?」
「うちの店の規約と、契約書の控え。今から簡単に説明はするが、あとで自分でもよく読んでおくように」
まるで仕事中と変わらない言い方で指図をする岬課長に、恐る恐る受け取る。
規約とかあるんだ……まぁ、そうだよね。
こういう人と人との仕事だし、寧ろそうやってきちんと決まっているほうが安心して利用出来る気もする。
「まず、期間は今日から10日間。時間をかけて、より恋人らしく仕上げていく」
「は、はい」
「恋人として過ごすのは、仕事後の19時から24時までの5時間のみ。この10日間は仕事後は俺と過ごせるように空けておくように。例え残業とかで20時からになったとしても24時までだから、そこは気をつけろよ」
うっ……。残業、気をつけなくちゃ。
前々から気をつけなくてはいけないと思っていたし、昼間岬課長から注意されたこともある。
そこに加えて一層気をつけなければ……お金を払って彼をレンタルしている意味がなくなってしまう。
「もちろん、朝昼はいつも通りの他人だ。俺は会社にバレるとまずいし、お前も人に知られたいような話でもないだろうから、お互いそこは気をつけること」
「はい、気をつけます……」
確かにお互いこのことがバレたら、彼は会社員として会社にいられなくなるし、私は女として『彼氏をレンタルする女』とレッテルを貼られてしまう。それだけは避けたい。
バレないように、と肝に銘じつつふと気付く。
「あの……恋人らしく、ってどう過ごすんですか?」
「どうって……恋人がすることと言えばひとつだろ」
「え!?」
こ、恋人がすることといえば!?
そこからポン、と思い浮かぶことに、思わず顔がボッと赤くなる。ところが、そんな私を見てその顔はおかしそうにふっと笑った。