午前0時の恋人契約
「決まってるだろ。デートだよ、デート」
「で……でーと?」
「それともなに、もっと違うこと考えてた?」
「なっ……!」
からかわれたことに気付き、恥ずかしさからますます顔は赤くなる。
岬課長はそれを狙ってからかったのだろうけれど、その思惑通り、違うことを考えてしまった自分が恥ずかしい……!
「心配しなくても、うちの会社の規約ではハグ以上のボディタッチは禁止だ。キスもそれ以上も、頼み込まれたって出来ないよ」
「そ、そうですか……」
「まぁ、料金とは別に払うっていうなら、上司と部下のよしみでしてやらなくも……」
「結構です!」
完全にからかわれている……。
いつもは無愛想ながらもキリッとしている顔を、ふふんと意地の悪い笑顔を見せ言う岬課長に、「ふんっ」と少し拗ねながらカップの中のコーヒーを飲んだ。
「ちなみに料金は、後払い。10日間が無事終了したうえでの支払いだ。料金表はその冊子の一番後ろのページに書いてある」
言われるままに、先程岬課長から渡された冊子の一番後ろをぺら、とめくれば、そこには『料金一覧表』と書かれた表が載っている。
私が利用するキャンペーンプランは……うん、やっぱり昨日聞いた通りそこそこの値段だ。
背に腹は変えられないけれど、決して安いと言える値段ではないだけに尚更失敗できないと思う。
そんな私に、目の前の岬課長はコーヒーをまたひと口飲んで呟く。
「あと呼び名。恋人同士で『課長』も変だから、ふたりの時は名前で呼ぶように」
「な、名前……ですか?」
「そ。『貴人』な」
な、名前?
岬課長を……『貴人』、なんて、そんなの無理。
「よ……呼べません……!!」
慣れないやら馴れ馴れしくて申し訳ないやらで断る私に、その目はじろりとこちらを睨む。