午前0時の恋人契約
「……はぁ、」
越谷さんは、私より後から入社してきた同じ歳の女の子。
顔立ちも綺麗で、スタイルもよくオシャレな彼女は、見た目も中身も私とは正反対。
もともと営業部の事務だった私が広報企画部への異動に伴い、代わりに営業部の事務となった越谷さん。
引き継ぎ後もわからないこともあるだろうからとなにかと手伝っていたら、いつしか仕事を押し付けられるようになってしまった。
堂々と押し付ける彼女も彼女だけれど、断れない私も私だ。
おかげで今日も、自分の仕事と越谷さんの仕事で手一杯になっている。
「おい市原」
「わっ、あっ、はい!」
続いて名前を呼んだのは、低く通る厳しい声。
ビクッと驚き飛び上がるように立ち上がると、フロア真ん中にある席に座っている彼のもとへと駆け寄る。
……うぅ、こちらもきた。
ビクビクと震えながら隣に立てば、その鋭い目はパソコンからこちらへと向けられる。
「先月の企画結果、全店から届いてるからそれまとめておくように。今日中に」
「えっ!?で、でも今私……」
「自分の分の仕事だけなら充分手は余ってるはずだ。それとも、なにか他に仕事でもあるのか?」
うっ……。
有無を言わさぬその言い方に、『人の仕事をやらなくてはなりません』とは当然言えない。
私はぐっと言葉をこらえ、「はい……」とうな垂れると自分のデスクへと戻った。