午前0時の恋人契約
ていうか……どうしてレンタル彼氏なんてしているんだろう?
岬課長くらいの立場の人ならお給料だって、私たち平社員よりいいだろうし、ブランド品など高そうなものを身につけている様子も、贅沢をしているふうでもない。
それなのに、どうして副業だなんて……しかもこの仕事だなんて。
はっ!もしかして、目的はお金云々ではなく女の人と過ごすこと!?
特定の相手は作らずに、女の人と楽しい思いはできるわけだし……だとしたらなんていけない男。
考えるうちにいきついてしまった思考に、『けど、そんな、』と頭を抱えながらトイレを出る。
「お、市原。おはよう」
「わぁっ!?」
すると目の前には、丁度通りがかったところらしい、岬課長の姿。
今日も形良くセットされた髪に、ダークチャコール色のスーツを着た彼は、至って普通の顔で黒い瞳をこちらへ向けた。
「お、おは、オハヨウゴザイマス……」
普通に、と思っても昨日の一件を思い出すと、気まずさからつい緊張してしまう。
あぁ、変にカタコトな挨拶になっちゃった……!普通に、なんて出来ないよー!
「市原」
「はっはひっ!」
思わず出たマヌケな声に、その手が持つクリアファイルで軽く頭を叩かれた。
「何だその返事は。変な声出してないで、今日までの資料まとめておくように」
そしてそのままファイルを私へ手渡すと、課長は長い脚でスタスタとその場を去って行った。