午前0時の恋人契約



いつも通り、だ。

……まぁ、そう、だよね。今は“他人”の時間だ。オンとオフは、きちんと切り替えなければ。



その後ろ姿を追うように歩き出し、彼の背中に続いてフロアへと入る。

すると岬課長がフロアに入るだけで自然と皆の目が向き、場の空気が微かに締まるのを感じた。



「岬課長、お疲れ様です。先日の件の報告書です」

「あとこれ新しい企画の案なんですけど……」

「わかったわかった、順番に聞くからちょっと待て」



皆の目が向き、意識が変わる。自然と人が集まり、皆に頼りにされる。



……眩しい人、だなぁ。

今日も彼は、人として輝いている。

私とは、真逆の世界の人。



「市原さん、おはよーございます」



先ほど岬課長に手渡されたクリアファイルを手に席に着き、今日もいつものように仕事を始めようとした時、呼ばれた名前。

顔を上げるとそこには、少し長めの茶髪をした細身の男の子……ひとつ後輩の津賀くんがいた。



店舗を見回る役目である店舗管理部の彼は、黒いスーツをきっちりと着こなしているものの、目にかかるくらいその前髪と彫りの深い外人さんのような顔立ちもあって、どう見てもホストのようだ。



「津賀くん。おはよう」

「早速なんですけど、このデータ入力頼んでもいいですか?店舗から急ぎで頼まれてる内容なんで」

「うん、分かった」



津賀くんとは以前一度大きな企画の担当を一緒にしたことがあり、以来よく話す間柄だ。

人懐こい性格が打ち解けやすく、社内の人の中でも数少ない話のしやすい相手。そんな彼はそういつものように仕事を私へ任せると、なにかに気付いたように顔を覗き込む。



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