午前0時の恋人契約
「あれ、すごい顔してますね。寝不足ですか?」
「えっ!う、うん……まぁ、そんな感じで」
「あ、もしかして彼氏と朝までラブラブしてたんですか〜?市原さん、おとなしそうな顔してやるぅ〜」
ひやかすようにニヤニヤしながら肘で小突く津賀くんに、はは、と笑えていない笑顔をこぼした。
朝までラブラブどころか……朝までひとりで頭を抱えていたんだよ……。理由を聞かれると困るから、言えないけど。
そう津賀くんと話をしていると、カツカツとハイヒールの音が近付いてくるのが聞こえた。
「市原さぁーん、今日もこれお願い〜」
かと思えばそれは越谷さんの足音だったらしく、今日は朝一番にやってきた。
しかも、ドサッと私のデスクに置かれた書類から見るに、仕事量はいつもより多め。
「こ、これは……?」
「仕事よ、仕事〜。私今日の昼間、取引先と食事会で外出するのにこんなに仕事あって困っちゃう。ね?だからおねがーい」
「でも……あの、」
さすがにこの量はちょっと多すぎる気がする。
今からならまたお昼に休まずやればなんとかなるかもしれない、けど……。
えーと、と言葉を探す私より先に、隣の津賀くんが口を開く。
「いやいやいや、越谷さん。それはないんじゃないですか?」
それははっきりとした性格の彼らしい言葉で、年上相手にも物怖じしないその言い方に、越谷さんの眉間には不快そうにシワが寄る。
「はぁ?なによ、文句あるわけ?」
「大アリですけど。昼間外出ならそれまでと戻ってきてからやればいいんじゃないですか?それでも終わらなくて頼むなら分かりますけど、これはどう見ても押し付けですよね?」
お、おぉ……!
すごい、津賀くん。越谷さん相手にここまではっきり言ってしまうなんて。しかも正論をしっかりと述べている。
自分の頼りなさが浮き出て余計に情けないけれど、彼の頼り甲斐のある言葉に思わず背中を押したくなる。