午前0時の恋人契約
幼い頃の記憶の中、父とふたりで過ごすのはいつも外。
時にはフレンチレストラン、時には日本料理の店。いつも高そうなお店ばかり選んでいたのは、父なりの見栄だったのだそう。
「その父に、少しでも立派な娘だと思われたくて。一生懸命練習したんです」
私は大丈夫だよ、という私なりの見栄と、私を思って時間を作ってくれる父をがっかりさせたくなかった。
私なりの、努力。
「……なんて、すみません。個人的なことを、ペラペラと」
へへ、と笑った私に貴人さんは小さく頷く。
「そうか。ならお前のその綺麗な仕草は、証だな」
「証……?」
「父親のためのすみれの努力と、すみれを思った父親の想いの証だ」
こぼされたのは、優しい微笑み。
証。私とお父さんの、互いのための証。
その言葉が嬉しくて、どき、と胸が小さく音を立てる。
「……はい、」