午前0時の恋人契約





「ふぅ……おいしかった」



レストランを出て、夜の街を歩きながら口から漏れるのは、至福のため息と満足感からの言葉。



あれから、次々と出てきた食事はやはりどれもおいしくて、それをひとつひとつ食べながらゆっくり時間をかけ食事を楽しんだ。

最初の緊張感が嘘のよう。穏やかな気持ちで彼と並んで歩く23時近くの街は、まだまだ人が多い。



「本当、お前好き嫌いないんだな。全部食ってて感心した」



少し高い位置にある彼の横顔が、思い出したように不意につぶやく。



「はい。あ、貴人さんはさりげなく玉ねぎ残してましたよね。苦手なんですか?」

「……周囲にバラしたらシメる」

「えっ!?言いませんよ!?ちょっと子供みたいでかわいいなって思っただけで……」

「誰が子供だ。フォローになってないんだよ」



気付かれていないといたのだろうか、彼のお皿の端に残されていた少しの玉ねぎを思い出しながら言う私に、貴人さんは恥ずかしそうに顔を背けた。

そんな態度が珍しくて、くす、と笑ってしまうとますます恥ずかしそうに彼は早足で歩き出してしまう。



「あっ!待ってください!」

「うるさい。隣を歩きたいなら追いついてこい」



す、拗ねた……!

恥ずかしくて拗ねるなんて、意外と子供っぽいところもあるんだなぁ。そう思いながら、必死に早足で追いかける。



「待ってくださいってば……わぁっ」



ところが慌てたのがいけなかったのか、なにもない場所にも関わらずパンプスの爪先はつまずき、私はその場に前のめりに転びかける。

そんな私の体を、少し前を歩いていた貴人さんは咄嗟に手を伸ばし、そっと抱きとめた。



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