午前0時の恋人契約



「っ……と。大丈夫か?」

「す、すみません、大丈夫です……」



び、びっくりした……。

驚きながら顔をあげれば、近付いた顔と、その腕にぴったりとくっついた体。

しっかりとした腕は、たくましく体を支えてくれている。



「わっ、あっ、えとっ」



ふ、触れてしまった!

ぼっと恥ずかしくなり急いで体を離した私に、今度は貴人さんがくす、と笑う。



「そんなに思い切り体離すなよ、傷つく」

「え!?あっすみません、そうじゃなくてっ……」

「嘘だよ。いちいち意識して、子供みたいでかわいい」



また意地悪な言い方をして、笑う。

その言葉はきっとさっきの私の言葉に対しての反論で、こういうところもちょっと子供みたいな人だと思った。

だけど、嫌だとは思わない自分がいて。



「ほら、手」

「え?」

「恋人なら、手くらいつなぐだろ?」



これは、彼との恋愛ごっこ。

彼氏のふりをした彼と、彼女のフリで、距離を縮めるための行為。

だけど、そっとつないだあたたかな手に、最初の不安はどこかへいってしまった。



思えば、誰かと手をつなぐなんて久しぶり。

手と手の感触がこんなにも心地いいと感じるのは、どうしてだろう。



……わからない。



だけど、午前0時を迎えるまでは、この手はつながれたままでいる。







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