午前0時の恋人契約
4.ヒトツ ヒトツ
『ならそのひとりとは、さぞかしいい恋愛をしたんだろうな』
昨夜の彼の、なにげないひと言に思い出すのは、たったひとりの恋の相手のこと。
20歳でした初めての恋は、恋愛と呼べるものなのか、今でもよくわからない。
好きだった。確かに、好きだった。
だけど、この心は壁を崩すことはできないまま。
『すみれの気持ちが、俺には分からない』
ばっと目を覚ますと、そこにあるのはいつもと変わらぬ白い天井。
大きな窓のカーテンの隙間から差し込む、穏やかな陽気とは裏腹に、この心臓はドッ、ドッと不穏な音をたてる。
「……はぁ、はぁっ……」
急激に冴えた頭に反応するように、気持ち悪い汗が噴き出す。
息があがって、苦しい。
それはきっと、今でもこの心に重くのしかかるもののせい。
「……泣き、そう……」
恋は、心をダメにする。自分には、あの人と同じ血が流れているのだから。
幼い頃に心に刻んだそのことが、あの日も今も、私を縛りつける。
それ故に、伝えられなかった。抱いていた気持ちを、彼に。
だからもう、繰り返さないように。
人に嫌われたくない、だけど愛することも愛されることもない。
無難な自分のままで、いい。
……そう、思っていたのに。
ベッドに横になったまま、太陽に照らされた自分の白い手を見つめた。