午前0時の恋人契約
「入社してからずっと憧れてて……もしよかったら、私と付き合ってください!」
真剣に想いを伝える彼女に向かい合う、青いネクタイをきっちりと締めた彼。その表情は同じく真剣に、眉ひとつ動かさない。
岬課長ってモテるんだ……。
まぁ、確かに見た目もいいし仕事はバリバリできる。年齢で見ても出世しているし……むしろモテない理由がない、か。
仕事中は怖い人だけど。
でもやめておいた方がいいですよ……その人ドSだし、お金で彼氏になるような人のですよ……!!
心のなかでそう叫びながらも覗き続けていると、岬課長は不意に小さく頭を下げる。
「……悪い。気持ちは嬉しいけど、お前のことは後輩としてしか見てない」
「そう、ですか……」
それは、残酷だけれど率直な、彼の気持ち。
「けどありがとな。気持ちだけ、受け取らせて貰う」
顔を上げた彼からこぼされるのは、彼女を気遣う優しい笑み。
応えられないけど、だからといって捨てたりしない。気持ちをきちんと受け止める。
そんな誠実なところが、いい人だと感じた。
「……ありがとうございます、失礼します」
女性はそう涙声で言うと、給湯室を出ようと体の向きを変える。
はっ!ま、まずい!覗いてるなんてバレたら気まずすぎる!
慌ててドアに背中を向けて、『私は全く聞いていまんでした』というように歩くフリをすると、女性は私を気にとめることなく足早に去って行った。
ふ、ふぅ……なんとか乗り切った。
一安心して、さて花瓶に花を飾ろうと再度くるりと体の向きを変える。
すると目の前に立つのは、こちらを見る岬課長。
「わっ!?みっ岬課長!?」
「朝から覗きとはいい趣味してるな」
「のっ覗きなんて……してない、ような、していた、ような……」
してない、と言い切りたいけれど、他人から見れば覗きのようなものだ。
しどろもどろに認めながら、逃げるように彼を避けようとするものの、通さないとでも言うようにその手は壁に突かれ道を塞ぐ。