午前0時の恋人契約



「……はぁ、」



小さなため息をつき、花を飾り終えた花瓶を手にフロアへと戻る。



「市原。これよろしく」

「え?あっ、はい!」



すると突然、岬課長から通りすがりに手渡される書類。

慌ててそれを受け取る私に、彼は慌ただしくフロアを出て行った。



仕事モードになると忙しい人だなぁ……。

そう手渡された書類をよく見ればそこには水色の細長い付箋が一枚貼ってある。



なんのメモだろう。そう確認をすると、付箋には丁寧な字で『今夜は映画な』のひと言。

それはおそらく、先ほど彼が言いかけた『今夜だけど』の言葉の続き。



たった一枚の付箋がなんだか特別なもののように感じられて、ちょっと嬉しい。

映画、かぁ。どんな映画だろう、洋画かな?ラブストーリー?アクション?

想像すると、楽しみに心が踊り出す。



って、楽しみ?……違う違う、楽しみなのは映画で、デートのほうじゃない。

デートは、ただの恋人としての練習でしかないんだから。



そう思いながら、緩む口元を書類で隠すようにしてデスクへとついた。





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