午前0時の恋人契約



「すっ、すすす、すみません!でっ……できません!」

「はぁ?できないとかないでしょ」

「できないんです!私これ今日終わらせないとっ……岬課長に本気で怒られるんです!すごく怖いんです!本当に怖いんです!!」



上司として怒る彼がどれくらい怖いかというと、具体例が出てこないくらい。

それくらい怖いのだと力説する私に、いつもなら引き下がらない越谷さんも、岬課長が絡むとなれば表情を歪める。



「な、なのですみません!お返しします!」



そして一度はデスクに置かれた書類を彼女へと押し返すと、越谷さんは不服そうながらも「あっそ」とその場を後にした。



や、やった……断れた!やりました!!

岬課長のおかげが大きい気もするけれど、それでもこうしてきちんと断れたのは初めてで、私は安心感に胸をなで下ろす。

これで企画書も今日中に出来るし、一安心だ。



「ふぅ……」



これだけのことにも関わらず、ホッとしたらなんだか気が抜けてしまった。



一旦トイレに行って気持ちを切り替えよう……。

そう席を立ち、フロアの近くにある女子トイレへと向かう。するとドアの向こう、トイレの中から聞こえたのはなにやらにぎやかな声。



「あーもう、仕事断られたぁ」

「あはは、今日は観念して仕事するしかないね〜」



それはどうやら越谷さんと、よくつるんでいる女性社員たちのもの。

私に仕事を断られた越谷さんは、その足でふてくされるようにトイレに入り込んだらしい。



うぅ、今この状況ではトイレに入りづらい。仕方ない、大人しくデスクに戻って企画書の続きを……。

そう足の向きを変えようとした、その時。



「ていうかさぁ、市原のくせに断るとか本当むかつく」



聞こえてきたのは、出来れば聞きたくなかった言葉。



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