午前0時の恋人契約



小さめのホールに入り、ぱらぱらと人が座る中チケットにある座席へとつくと、そこは仕切りのない二人用のペアシート。



ぺ、ペアシート……緊張する。

普通に座る貴人さんに続いて座り、ふたり並べば、触れる肩。

スーツ越しの感触に、つい体は強張る。



い、異性とこうして近い距離に座るなんて……何年ぶりだろう。

意識しないように、そう思っても心はやっぱりいうことを聞いてはくれない。行き場なく膝に手をおき、小さくなって座った。



そのうちに劇場内は暗くなり、流れ出す予告と、お決まりのカメラのキャラクターの映像。

それらを見るふりをしてちら、と右隣を見れば、右の肘置きに腕を置き頬杖をつきながらスクリーンを見つめる貴人さんがいる。



……あの格好、クセなのかな。

仕事中もよくあの格好で書類とかパソコンとか見てるもんね。

姿勢が綺麗なせいか、偉そうやだるそうなふうには見えなくて、まるで雑誌の中のモデルのようだ。



綺麗な、横顔。

高い鼻と小さな顎、吹出物ひとつなさそうな白い肌。それらがスクリーンの灯りにてらされ、いっそう美しく見える。



つい見とれちゃうなぁ。

こんなにもまじまじと見ていることを気付かれたら恥かしい。そうそっと視線を私もスクリーンへと移した。



その時、膝の上にのせてあった手は、不意に彼の手にそっと握られる。



わっ……!?

先ほどまでつないでいた手。けれどこの場でこうして突然触れられるとは思いもせず、つい出そうになった大きな声をぐっとこらえた。



い、いきなり……なに?

握られた手にバクバクとする心臓をおさえながら彼を見るものの、その顔は先ほどと変わらずスクリーンを見つめたまま。


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