午前0時の恋人契約
「……あー……な、なかなかいい映画だったな」
「……そう、ですね……本当、なかなか……ふふっ」
「笑うな」
2時間後、映画を見終えロビーへと出てきた私たち。
額にじんわりと汗をにじませる彼は、この手をしっかりと握ったまま。そんな姿に、私は笑いをこらえるもののこらえきれない。
「すみません……笑うつもりはないんですが……貴人さん、映画中ずっと……ビクッ、ビクッて……最後には顔背けてたし……」
「うるせーな!悪いか!?あぁ認めるよ!怖いの苦手なんだよ!あの女顔も登場の仕方もいちいち怖すぎるんだよ!!」
荒い口調で言うものの、その内容に一層笑いはこみあげる。
そう、映画の流れている2時間中、貴人さんは常に手を震わせ、幽霊が出る度にビクッと驚き……。
最後の幽霊が主人公に襲いかかるシーンでは、恐ろしさのあまり顔を右方向へ背けてしまっていた。
そんな姿を見てしまっては、なかなか笑いは止まらない。
「あはは……すみません、お腹、くるしい」
「ったく、笑いすぎだ」
思い出してまた涙が出るほどお腹を抱えて笑う私に、貴人さんは恥ずかしそうに怒る。
けれど、ふとなにかに気付いたように私の顔をまじまじと見つめた。
「どうしたんですか?」
「お前もそうやって思い切り笑えるんだなーと思って。俺はいつもビクビクしてるか、人の機嫌とるように愛想笑いしてるところしか見てなかったから、初めて見た」
「あ……」
言われてみれば、そう。
こうして人前で思い切り笑うこと自体あまりなかったことで、それも会社の人の前では絶対できなかったこと。
だけど今、どうしてか。彼の前ではこうして思い切り笑えている。