午前0時の恋人契約
「いやー、市原さんありがと!助かったわ!」
「……越谷さん、やっぱり」
「あの仕事ついうっかり忘れててさぁ。でも今日中とか言われても私今夜も予定あるし、市原さんならやってくれるって信じてたから!」
やっぱり、彼女のミスだった。
そのことを隠すことも、悪びれる様子もなく、彼女は笑って私の肩をポンっと叩いた。
「ま、今日中に終わらせればお咎めなしだからさ!ヨロシク〜」
なんてことないように、そうひらひらと手を振り去って行く背の高い後ろ姿。
その景色に思い知る。あぁ、やっぱり、自分はこういう役目の人間なのだと。
悔しい、腹立たしい。
だけどそれは、押し付ける彼女に対してでも疑う上司に対してでもない。
正直に、自分の意思を強く言えない自分自身に対して。
なのに、悔しくても諦めろと言い聞かせる自分もいる。
私がひとり頷いていれば、余計こじれることもなく終わる話。
私が全て受け負えば、誰ひとりとして嫌な思いもしない。嫌な空気にもならないし、平和に収まる。
なら、それでいいじゃないか。
自分の意思を示して、嫌われるくらいなら。平気なふりで、いよう。
それで、いいんだ。