午前0時の恋人契約



「いやー、市原さんありがと!助かったわ!」

「……越谷さん、やっぱり」

「あの仕事ついうっかり忘れててさぁ。でも今日中とか言われても私今夜も予定あるし、市原さんならやってくれるって信じてたから!」



やっぱり、彼女のミスだった。

そのことを隠すことも、悪びれる様子もなく、彼女は笑って私の肩をポンっと叩いた。



「ま、今日中に終わらせればお咎めなしだからさ!ヨロシク〜」



なんてことないように、そうひらひらと手を振り去って行く背の高い後ろ姿。

その景色に思い知る。あぁ、やっぱり、自分はこういう役目の人間なのだと。



悔しい、腹立たしい。

だけどそれは、押し付ける彼女に対してでも疑う上司に対してでもない。

正直に、自分の意思を強く言えない自分自身に対して。



なのに、悔しくても諦めろと言い聞かせる自分もいる。

私がひとり頷いていれば、余計こじれることもなく終わる話。

私が全て受け負えば、誰ひとりとして嫌な思いもしない。嫌な空気にもならないし、平和に収まる。



なら、それでいいじゃないか。

自分の意思を示して、嫌われるくらいなら。平気なふりで、いよう。




それで、いいんだ。





< 69 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop