午前0時の恋人契約
「な、んで……」
「お前がそんなミスをしないのは分かってるし、頼まれたことはその日のうちに全部やる奴だって、分かってる。だから、お前じゃないんだろ」
彼は全て分かっていた。私の都合のいい嘘と愛想笑い。だからこそ余計に、苛立ったような感情をむきだしにこちらへぶつける。
「……私のせいになれば、上手く話も収まりますから。誰も嫌な思いもしないですし」
「へぇ。人の顔色見てご機嫌とって、ミスも被って、そこまでして人に嫌われたくないか?そこまでして好かれて嬉しいのかよ」
こちらを睨むような瞳に率直すぎるほどのその言葉は、心の奥にグサリと刺さる。
そこまでして、嫌われたくない、好かれて嬉しい、
なんで、そんな言い方をするの。
あなたには、なにも分からないくせに。
「貴人さんには分かりません!!」
思わず出た大きな声は、ひと気のないフロア内に思い切り響く。
「皆に好かれて、いつも中心にいる……なんでも持ってる、私とは違う世界のあなたには、私の気持ちなんて分からないっ……!」
皆が信頼して、いつも名を呼ぶ人。
自信、勇気、信頼、私の持っていないものを全て持っているあなたは、私とは真逆の世界の人。
眩しい、遠い、世界の人。
そんなあなたには、分からない。
睨むように見つめ返せば、その黒い瞳に泣きそうな自分の顔が映り込む。