午前0時の恋人契約
「どうだ?すみれ。取引先や友人、果てはうちの社員まで声をかけにかけて、そこから選りすぐったお前を任せられるいい男たちだ!書類選考から始めてもよし、全員と一度会ってみてもよし!」
「よし、と言われても……」
ど、どうしよう……!
お父さんがこうなったら、きっとよほどのことがない限り止まらない。
このまま誰かしらとお見合いさせられて、数度食事をしてしまったら最後。相手とお父さんに押し切られたら、私の性格上うまく断れずに丸め込まれてしまいかねない。
それは困る。結婚なんて、したくない。
だけど、でも……どうしよう。断れそうないい理由とかないかな。
まだ仕事を頑張りたい、とか?いや、『結婚してからもできる』って言われそう。
独身を謳歌してる、とか?いや、『そろそろいいだろう』と言われておしまいだ。
うまい言い訳が出てこない……!!
頭の中の焦りを表すように、たらりと背中を伝う冷や汗。
あれじゃない、これじゃない、と考えに考え、ふとひとつ思いついた。
あ。すごく簡単で納得のいく理由、あった。
「お、お父さん!」
「ん?どうしたんだ?」
「わっ私、彼氏がいるの!」
その突然の一言に、目の前の父は目を丸くして首をかしげる。
「か……彼氏?」
「う、うん!付き合ってまだ1年くらいだから結婚とかはまだまだ全然わからないけど……彼氏に悪いから、お見合いとかは出来ないっていうか、」
そう、先ほど私は『その気はない』とは言ったけれど、『相手がいない』とは言っていない。
まぁ、実際には当然相手もいないけど、でもこれならさすがのお父さんも無理にお見合いをさせようとはしないはず。
「そうだったのか……それなら早く言いなさい。さすがに彼氏がいるのにお見合いなんてさせられないだろう」
「あ、あはは……ごめんね、恥ずかしくてなかなか言えなくて」
予想通りに運んでいく会話に、安心感から笑みがこぼれる。
ふぅ、とりあえずこれでお見合いは回避できた。当分はこの嘘で乗り切っていくしかないかな。
自分の親に嘘をつくなんて心苦しいけど……まぁ、仕方ないよね。