午前0時の恋人契約



「別に、夜遅いのも朝早いのもいつものことだ。気にするな」

「でも……あっ、でしたら今日はデートなしでも」

「なに言ってる、金もらってる以上そんなこと出来るかよ」



1日くらい、と甘えないのが貴人さんらしい。けど私になにか出来ることはないだろうか。

うーんと悩んでいると、彼はまたふっと笑みをみせ、こちらを振り向き私の腕を引っ張る。



「わっ」



そして私を自分と壁の間に挟むように、壁へ手をつき顔を近づけた。



「えっ、あっ、えとっ」



ち、近い!

触れそうなほどの距離に急接近され、ドキッと心臓が強く跳ねる。



「それなら、デートなしより体で癒してくれるほうが嬉しいんだけどなぁ」

「え!!?」



か、体で!?

近づく顔と逃げられない腕に、『体で』の一言。それらに恥ずかしくならないわけがなく、かああと顔が赤くなっていくのを感じた。



「か、体でと言われましても……癒せるほどの技量は、私にはないといいますか、寧ろ貴人さんにご苦労をおかけしかねないというかっ……」



耳まで真っ赤にして一気にパニックになる私に、エレベーターはポン、と音をたてて止まり、途端に貴人さんはスッと体を離して平然とエレベーターを降りていく。



「えっ!?あ、あのっ!?」

「じゃ、今日も19時なー」



背中を向けたままひらひらと手を振り去っていく。その楽しげな声から。またからかわれたことにようやく気付いた。



か、からかわれた……!!

そうだ、彼がいきなり距離を詰めるときはだいたい私をからかう時だ。

分かっているのに、いちいちこうしてドキドキしてしまう。



「はぁぁ〜……」



朝は他人の時間、恋人じゃない。なのに、こうして不意に近づくから、私の心臓はうるさくなる。





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