午前0時の恋人契約
「市原さん、おはよーございます!」
「ひゃあっ!」
今日もいつも通り、デスクにつき仕事を始めた頃。
フロアへとやってきた津賀くんは、今日も長めの毛先を揺らし元気よく私の背中をバシッ!と叩いた。
「つ、津賀くん……おはよう」
「いやぁ市原さん聞きましたよ〜。昨日山のような仕事一人で片付けたらしいですね!さっき向こうで営業部長がベタ褒めしてましたよ!」
それは昨日のあの仕事の件だろう。部長、見て納得してくれたんだ……よかった。
安心感に、ただ純粋に安堵する私に、それをわざわざ教えにきてくれた彼は、高いテンションを伝えるようにバシバシと私の背中を叩く。
「しかもあれ、越谷さんの仕事だったんですよね?」
「え?どうして知ってるの?」
「越谷さんが市原さんに押し付けてるの有名ですから。部長以外みんなちゃーんとわかってますよ。それでもちゃんとやっちゃうから、市原さんはすごいねって」
みんな、わかってる。見てくれている。そのことが嬉しくて、「へへ」と緩んだ笑みがこぼれた。
「市原さーん、おはよ〜」
津賀くんとそう話をしていると、今日もバサッとデスクに置かれた書類。それらから視線を上げれば、そこにいたのは越谷さんだ。
濃い黄色と白のビタミンカラーのトップスを着た彼女の耳元には、今日も大きなフープピアスが揺れる。
「昨日はお疲れ様、ってことで今日もこれお願いね!」
これ、と言われて書類を見れば、それはやはり彼女のやるべき仕事であって、まさか昨日の今日でまたこうして仕事を持ってくるとら思わず……驚く私の横で津賀くんは顔をしかめる。