午前0時の恋人契約
「ちょっと、それはないんじゃないですか?昨日自分がなにしたか覚えてます?」
津賀くんは当人である私より先に不満を発し、越谷さんに冷たい目を向けた。
「えー?私はなーんにもしてないけど?自分のミスを自分でやっただけでしょ?ね、市原さん」
そんな目で見られようと、本当に悪びれる様子も一切なくけろっとした顔で言い切る越谷さんに、「お前なぁ……」と人のことながらも津賀くんの怒りは頂点に達しそうだ。
越谷さんはそんな津賀くんを鬱陶しそうに見ると、ふん、と鼻で笑う。
「それに市原さん自身がやるって言ってるんだから。あんたにあれこれ言われる筋合いないもの」
じろ、と私を見る目は威圧的な笑顔。『断るわけないでしょ?』と浮かべる笑みが、私の一言によって歪むかと思うと、やっぱり怖い。
責められるのも、悪く言われるのも、怖い。
だけど。
『誰だってどこかで毎日なにかと戦ってるんだよ』
『全部ひっくるめてひとつひとつ力にしろ』
思い出す、昨日の彼の言葉と力強い眼差し。
変わりたい、って、思ったじゃないか。
勇気を出す、って、決めたじゃないか。
戦うんだ、私も。貴人さんのくれた言葉とともに。
「……お断り、します」
「え?」
立ち上がり小さく呟いた一言に、目の前のふたりは予想外とでもいうようにキョトンとこちらを見る。
「わ、私……私にも、仕事がありますから。自分の分の仕事は、自分でお願いしますっ……」
裏返りそうな声で、言い訳せずにしっかりと伝えた言葉に、その顔はキッと歪む。
けど、ここで怯むのもダメだ。そう心に決め、私は逃げ出したい気持ちをぐっとこらえて堂々と彼女を見た。