午前0時の恋人契約
「けど、今日はちゃんと断れてたな」
「えっ、見てたんですか?」
「あぁ。言い訳もせずよくちゃんと断れた。えらいえらい」
まるで子供を相手にするかのように、くしゃくしゃと頭をなでる手。
えらい、って……私、一応もうそれなりの年齢なんですが。そう思うものの、優しいその手に嫌な気持ちになどならず、むしろ嬉しいと思える。
心を後押ししてくれた彼の言葉に、救われて、励まされて、思う。
沢山の気持ちをくれるあなたに、私はなにが返せるだろう?
なにかひとつ、小さなことでもいい。
「……あの、今日はこれからなにかお仕事はありますか?」
「え?あぁ、一応一時間はこの作業のために空けてあるが、そのあとは企画のミーティングと……」
「で、では、その一時間を私にいただけないでしょうか!?」
思い切って言うと、その顔は『は?』というように不思議そうな顔をする。
答えを待つことなく私は一度作業を中断しドアへ向かい、ガチャンと内鍵を閉めた。
そして彼の腕を引っ張り部屋の隅に置かれていた黒いソファへ座らせると、自分も隣へ座り膝をポンポンと叩いた。
「な、なんだよいきなり」
「私の膝でなんですが、よかったら枕にして寝てください!」
「はぁ?」
自分でも、少し変なことを言っているとは思う。ましてや今は他人としての時間。上司に対して言うようなことではないだろう。
けど、それでも。
「私のせいでここ何日かまともに休めてないですよね?なので、それならちょっとでも休んでもらいたいなと、思いまして……あっもちろん資料作りはあとで私がやります!」
「……なにバカなこと言ってるんだよ。仕事中に部下の膝で寝るやつがいるか」
「いいですから!はいっ」
半ば無理矢理説得をすると、力ずくでその頭を自分の太ももへ寝かせた。
珍しく私が積極的なことに驚いたのだろう、最初は戸惑い抵抗していた貴人さんも、渋々納得するように私に背を向ける形で膝枕を受け入れた。