午前0時の恋人契約
「……この歳で膝枕とか。屈辱だ」
「す、すみません。ですが夜のデートは休まないでしょうし、ひとりで大人しく横になっていられるタイプでもないでしょうし……」
話しながら目の前の彼を見れば、顔は窓の方へ向けられたまま。
横になることで少し乱れた黒い髪と、普段は隠れている形のいい耳。首筋にちらりと見えたホクロが、また初めて彼の一面を見せる。
綺麗な人、だなぁ。横顔、耳、首筋、どれをとっても綺麗で、印象的。
……というか。
無理矢理膝枕なんてしちゃったけど、大丈夫かな……!?
私の膝枕固くない?寝心地悪くない?膝枕がないほうが寝やすい?
あぁ、今更ちょっと恥ずかしくなってきちゃった……!
今更になって後悔をする私に、貴人さんは顔を背けたまま。
「……眠れないな」
「え!!」
や、やっぱり!!
どうしよう、私向こうで大人しくひとりで資料作りしていたほうがいいんじゃ……。
「眠くなるまでの間、お前の話を聞かせろ」
ところが、ぼそ、と呟かれたのは予想外のひと言。
「え?」
「すみれのことが、知りたい」
つぶやいて、向けられた顔。
まっすぐにみつめる瞳が私を知りたいと思ってくれるのは、興味か、ほかの理由か、分からない。知られることも、少し怖い。
けれど、知りたいと言ってくれるその気持ちが嬉しくて、勇気を出して小さく口を開いた。
「……私、貴人さんが言ってた通り、ずっと人の顔色を伺って生きてきたんです」
ぼそ、と呟く声がふたりきりの室内に響く。
自分のその言葉に思い出すのは、小さなアパートの部屋の隅で、ひとり座っていた幼い頃の記憶。