午前0時の恋人契約
けど、そっか。今の急接近は部長に誤解をさせて払うためだったんだ。
そうだよね、じゃなきゃ会社であんな風に接したりしないだろうし……。
納得しながらも、まだ体を抱き寄せるその腕に心臓はドキドキと音を立ててしまう。
「でも大丈夫なんですか?もし噂にでもなったら……」
「別に、好きに噂させておけ。付き合ってる、とは言ってないしな」
大丈夫なのかなぁ。私は別に構わないけれど、貴人さんは私なんかと噂になったら困るんじゃ……。
そう悩む心を知らずに、その手は腰を抱いたまま。
はっ、普通に抱き寄せられているけれど……意識してみるとこれはなかなか恥ずかしい!
ぴったりとくっついた体に、腰という普段人が触れることのない位置に回された手。先ほど部長に触れられたときはぞわぞわとしかしなかったのに、こうして貴人さんにされるとドキドキとしかしない。
「あ、あの貴人さん……そろそろ、手を……」
「ん?あぁ、忘れてた。悪いな」
「い、いえ……」
忘れてた、って……!全く意識されていない事実に、ひとりでドキドキしている自分が恥ずかしい。
そっと離された手に自然と体も離すと、ほのかに香る彼の残り香につい鼻が反応してしまう。