午前0時の恋人契約



「そういえば今夜、少し遠出するから定時には仕事終わらせておけよ」

「遠出、ですか?」

「って言っても片道一時間かからない範囲だけど」



って……どこに行くんだろう?

そう話していると、廊下の奥の方からは「岬課長いますかー?」と貴人さんを呼ぶ声が聞こえてくる。



「じゃあ俺行くから。さっさとコピー済ませてフロア戻れよ」

「は、はい……あっ!貴人さん!」



そんな彼の腕をぐいっと引っ張り、伝えたいのは。



「助けてくれて……ありがとうございました」



部長から庇ってくれた時、彼に感じた安心感。迷わず抱き寄せてくれた手が、ドキドキして嬉しかったから。

頬を染めて伝えたことに、貴人さんは小さく笑うとぽんぽんと頭を撫で去っていく。



『気にするな』とでもいうかのような、優しい瞳に胸の奥で音が鳴る。

ドキ、ドキ、と心がうるさいよ。





< 97 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop