午前0時の恋人契約
「そういえば今夜、少し遠出するから定時には仕事終わらせておけよ」
「遠出、ですか?」
「って言っても片道一時間かからない範囲だけど」
って……どこに行くんだろう?
そう話していると、廊下の奥の方からは「岬課長いますかー?」と貴人さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
「じゃあ俺行くから。さっさとコピー済ませてフロア戻れよ」
「は、はい……あっ!貴人さん!」
そんな彼の腕をぐいっと引っ張り、伝えたいのは。
「助けてくれて……ありがとうございました」
部長から庇ってくれた時、彼に感じた安心感。迷わず抱き寄せてくれた手が、ドキドキして嬉しかったから。
頬を染めて伝えたことに、貴人さんは小さく笑うとぽんぽんと頭を撫で去っていく。
『気にするな』とでもいうかのような、優しい瞳に胸の奥で音が鳴る。
ドキ、ドキ、と心がうるさいよ。