午前0時の恋人契約
「なにが乗りたい?すみれの好きでいい」
「えっ、本当ですか?じゃあ、あれがいいです!」
そう迷うことなく指差したのは、目の前にある大きなメリーゴーランド。
キラキラと輝くメルヘンな形の造りに、馬や馬車がゆっくりと回るそれは、とてもかわいらしい。
「メリーゴーランド?」
「はい、実は一回も乗ったことがなくて、いつか乗りたいと思ってたんですけど……」
はしゃぐように指差しながら隣を見れば、キラキラとしたメリーゴーランドを見るその顔は少し恥ずかしそうだ。
はっ!そうだよね、私も貴人さんもいい歳した大人なのに!
ましてやお互い仕事帰りのこの服装で、メリーゴーランドに乗りたいなんて子供みたいなこと……!
「な、なんて、すみません、子供みたいなこと言って……」
「いいよ、乗るか」
「えっ!」
慌てて訂正する私に、貴人さんはふっと笑って手を引き歩き出す。
「い、いいんですか?恥ずかしかったり……」
「まぁ恥ずかしさがないといえば嘘になる。けど、すみれがしたいことをしたいからな」
そして、メリーゴーランドの中へ入ると白い馬に手をかける。
「お仰せのままに、お姫様」
微笑み、からかうように言われたその一言がちょっと恥ずかしい。
けど、その手に導かれるようにゆっくりと馬に乗れば彼はエスコートするようにそっと肩を抱き支えてくれた。
白馬の上、横向きに座る私を後ろから抱くように座る。ぴったりとくっついた体に、少し緊張してしまう。
クラシックのBGMが流れる中、発車のブザーとともにメリーゴーランドは回り出した。